と話をする方がどれぐらゐ清潔でいゝか分らない。踊りなども一向に見栄えのしない、たゞ手が延びたりひつくりかへつたり縮んだり、動かない方がよつぽどましだと私はウンザリして酒をのんでゐた。
 舞妓の一人に東山ダンスホールのダンサアが好きでそのダンサアと踊りたいと言ひだしたのがゐて、私達は自動車を走らせ四五人の舞妓をつれて深夜のダンスホールへ行つた。もう十二時をすぎてゐた。このダンスホールは東山の中腹にたつた一軒たてられた景色のよいところで、もし酒を飲ましてくれるなら、私は外の場所では酒を飲まないと思つたほどの良いところであつた。
 舞妓の一人が、踊りませうと私に言つた。よろしい、私は即座に返事をした。私がダンスホールといふところで踊つたのは、このときたゞ一度あるのみ。ドテラの着流しで小さな舞妓と(この舞妓は特別小さかつた)踊つたことがあるだけ。
 私はこのとき、酔眼モーローたるなかで一つの美しさに呆気にとられてゐた。それは舞妓の着物、あの特別なダラリの帯、座敷の中で踊つたりぺチャクチャ喋つてゐるときは陳腐で一向に美しいとも思はなかつたのだが、ダンスホールの群集にまじると、群を圧して目立つのだ
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