ケで、天皇は日本の一番古い家柄、それだけの事実にたよるのがもっとも正しく、事実そのもののもつ『つつましやかな』国民的敬意にたよっておれば、永遠に問題はない。事実そのものにのみ実際の力が即しているのだから。
天皇が関西方面へ旅行する、沿道の歓迎が大変だったという。多くの人が泣いていたという。
私はそれをやっぱり璽光様の同類と見るのである。八紘一宇教の残党で、国民儀礼という天璽照妙の一類型が、カンコ、バンザイという略式に変ったゞけ、日本人の胸にすみ太古さながらの邪教性には、敗戦による反省、進歩がないという証拠にすぎない。
直訴などということ璽光尊の世直し以上の馬鹿らしさ、これを滑稽奇怪と見ずに、国民忠誠のあらわれだの、ジュンボクなる心のあらわれなどと見る、かかる国民感情それ自体が驚くべき邪教性そのものであり、璽光尊様を笑うどころの段ではない。
天皇家、日本で最も古い家族、これはたゞそっとしておくべきもの、それだけの事実によっていたわり敬愛すべき性質のもの、日本はまず国民的邪教性からぬけでなければ、璽光尊も熊沢天皇も笑うわけにゆかぬ。
底本:「坂口安吾全集 05」筑摩書房
1998(平成10)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「夕刊北海タイムス」
1947(昭和22)年7月20日
初出:「夕刊北海タイムス」
1947(昭和22)年7月20日
入力:tatsuki
校正:藤原朔也
2008年4月15日作成
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