どけてうせえ。ぬすびとが貰ったものを返そうなら、地獄の魔王も亡者の命を返してくれよう。まず、ぬすびとの御馳走をくえ」
 彼等は手に手に榾柮《ほだ》をとり、ところかまわず大納言を打ちのめした。衣はさけ、飛びちる火粉は背に落ちたが、すでに、大納言は意識がなかった。
 もはや動かぬ大納言のありさまをみて、盗人たちは、はじめて打つことに飽きだしていた。ひとり、ふたり、彼等は自然に榾柮をなげた。そうして、いちばん最後まで榾柮をすてずにいたひとりが、榾柮の先に火をつけて、大納言のあらわな股にさしつけた。大納言は必死に逃げているのであろうが、びくびくと、ようやく芋虫のうごめきにすぎないところの反応をみると、盗人たちは声をそろえて、笑いどよめき、大納言を木立の蔭へ蹴ころがした。思いがけなく現れた当座の酒興にたんのうして、物言うことも重たげに、盗人たちはあたりのものをとりまとめて、いずこともなく立去った。
 ほどへて、大納言は意識をとりもどした。すでに焚火も消えようとして、からくも火屑を残すばかり、あたりに暗闇がかえろうとしていた。
 大納言は、今いる場所、今いる立場がわからなかった。やがて、自然にわか
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