身は、どうなんだ」
「あなたのことを、おつしやいよ」
「僕は、あたりまへの奥さんを貰ひたいとは思つてゐない。それだけだ」
「うそつき」
 私にとつて、問題は、別のところにあつた。私はただ、この女の肉体に、みれんがあるのだ。それだけだつた。

       七

 私は、どうして女が私から離れないかを知つてゐた。外の男は私のやうにともかく女の浮気を許して平然としてゐないからだ。又、その上に、私ほど深く、女の肉体を愛する男もなかつたからだ。
 私は、肉体の快感を知らない女の肉体に秘密の喜びを感じてゐる私の魂が、不具ではないかと疑はねばならなかつた。私自身の精神が、女の肉体に相応して、不具であり、畸形であり病気ではないかと思つた。
 私は然し、歓喜仏のやうな肉慾の肉慾的な満足の姿に自分の生を托すだけの勇気がない。私は物その物が物その物であるやうな、動物的な真実の世界を信ずることができないのである。肉慾の上にも、精神と交錯した虚妄の影に絢どられてゐなければ、私はそれを憎まずにゐられない。私は最も好色であるから、単純に肉慾的では有り得ないのだ。
 私は女が肉体の満足を知らないといふことの中に、私
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