を仰ぎたいのだよ。ワシもダイコクを三人もとりかえたり、その又昔はコツやナカへ繁々と通ったものだが、当世の女流はわからん」
「私のお尻をぶちながら死ぬなんて、卑怯でしょう。吾吉だって、同じように卑怯なのよ。男はみんな卑怯だと思っていゝわ。私は、男なんか、憎むだけよ。みんなウスバカに見えるだけよ」
「なるほど。そんなものかな。そういえば、たしかに、男はウスバカだよ。とんだヤブヘビとは、このことだ。しかし、吾吉は、お前を叩き斬ッてきざんでやりたいが、そうもいかないから、せめて坊主にしてくれたいと恨んでいたから用心するがいゝ。亡魂は根気のいゝものだ。坊主をしていると、よく分る。三代まではタタラないが、一代だけは根気よく狙いをつけているものだよ」
ソノ子は薄笑いをうかべただけで、返事もせずに、サヨナラと帰ってしまった。
和尚はシミジミ骨壺を見つめた。男はみんなウスバカに見えるという言葉が、身にこたえたのである。
男はたしかに凡夫にすぎない。ソノ子のお尻の行雲流水の境地には比すべくもないのである。水もとまらず、影も宿らず、そのお尻は醇乎《じゅんこ》としてお尻そのものであり、明鏡止水とは、又、
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