狂っていたのである。しかし、とにかくその日人が死んでいたことは当っていたのだ。野村はちょッと神秘的なものを感じて、木戸のために祝福したい気持になった。
「娘と同棲している若い男は、木戸かも知れない」
野村はそう考えた。木戸が再び茶店を訪れた際に、狙いの謎は外れていたが、人死にだけは当っていたと判った場合に、同棲というコースをたどると仮定するのはやや無理筋に類しているが、人生、意外はつきものだ。とにかくその男を一見してみなければ気持がおさまらなくなったのである。娘の荒々しいのにはヘキエキだが、オヤジの死が娘の手によるものでない限りはオレのイノチも無事だろうと野村は心をきめて出発した。
山上へ登りきると、うまいぐあいに裏手の畑で働いている男の姿を認めた。彼のセーターをきて野良をたがやしているのである。茶店の前をよけて畑へまわり、男の前へ立ってみると、まさしく木戸ではないか。木戸は彼を認めると、落ちつきはらって、笑った。さすがに勝負師のずぶとさであった。
「きのうお見えの噂をうけたまわっておりましたよ。よくわかりましたね」
「キミの奥方のカンバセにボクも四五桂を読んだのでね。もしやという
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