敬語論
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)怪《け》しからん
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 インドの昔に学者が集って相談した。どうも俗人どもと同じ言葉を使ったんじゃ学問の尊厳にかゝわる。学者は学者だけの特別な言葉を使わなければならぬ。そこでそのころのインドの俗語(パーリ語という)を用いないことにして、学者だけの特別の言葉をつくった。これをサンスクリット(梵語)と称するのである。又、近世に於ては、国際間に共通の言葉がなければならぬというので、ラテン語をもとにしてエスペラントというものができた。
 こういう人為的な作物と違って、現在使われている言葉は、自然発生的なもので、時代時代の変化をうけつゝ今日に及んでいるもの、日本文法などゝいうものは近世のもの、先ず言葉があって、のちに、文法というもので分類整理したにすぎない。
 言葉は時代的なものである。生きている物だ。生活や感情が直接こもっているものだ。だから、生活や感情によって動きがあり、時代的に変化がある。
 エート、それは……と考える。ソレハネーと考えこむ。ソレハネーのネーなんかイラネエジャナイカ、と怒ったってムリだ。
 
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