群集の人
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)斑猫蕪作《はんみょうぶさく》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時々|恁《こ》んな
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)そいつ[#「そいつ」に傍点]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ガチャ/\
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雑沓の街は結局地上で一番静寂な場所であるかも知れない。斑猫蕪作《はんみょうぶさく》先生は時々|恁《こ》んな風に思ひつかれることもあつたが、兎に角斑猫先生はアッサリと銀座裏のアパアトへ引越してきた。行方杳として知れず――つまり斑猫先生は風のやうに消息を断つて、ひそかに雑沓の街へ隠遁したわけであつた。これで清々したと先生は考へた。
先生は独身で通したので、もともと一人ぽつちであつた。特殊な団欒を持たないので、紋切型の社交が殊更に五月蠅《うるさ》く感ぜられ、齢と共に沁々と孤独なる喜びが身に沁み渡るやうであつた。幸ひ停年制に由つて大学教授を止すこととなつたので、これを機会に五月蠅い世間と交渉を断つ決心をつけた。結局先生にとつ
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