ダンサーが非常に多くなり、このことは戦前のダンスホールに見られなかつた現象だといふ。これも亦一つの進歩ぢやないか。かうして汚辱の中から新らしいものが育つてくる。
 たゞれた愛慾、無軌道な放埒の中からも、やがてそこに高い魂が宿るやうになるものだ。たゞれた愛慾はいつの世にもあるもので、娯楽のせゐぢやなく、人間のせゐだ。娯楽が人間の劣情を挑発するといふなら、娯楽を禁止して、娯楽なき健全世界を創るか。これが健全だといふなら、私は不健全、私は不健全を名誉とする。
 私は娯楽奉仕の職人たる誇りをもつから、かゝる誇りと努力によつて、奉仕の商品にも自然進歩があり、そのうちには商品に魂も宿るやうになり、いくらか文学らしくなることもあり得るだらう。私の奉仕の精神には、誇りと努力があるから、さうなる見込みもあるといふものだ。奉仕の職人たる心構えと努力にともかく自信があるといふことは、私自身に生きる意味を感じさせてくれる。その自信をもつことによつて、私はともかく、うれしい。
 私はそれ以上のものでなくとも構はない。



底本:「坂口安吾全集 05」筑摩書房
   1998(平成10)年6月20日初版第1刷発
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