かい。これがわたしの役目どす。かういふ風に答へる。さうして、青筋をたてゝ、ふくれてゐる。益々お客の評判が悪い。
 先生が色々と言ふてくらはるよつてに辛抱もしてみましたけど……関さんは僕の所へやつてきて、もう、とても我慢がならないからほかの口を探してくるといふのであつた。さうして、前後二度、ほんとに勤め口を見つけだして姿を消した。然し、二度ながら、四日目には、もう、戻つて来たのだ。主婦が僕の部屋へやつてくる。朝のうちだ。僕をゆり起して、ほんまに先生、お休みのところを済んまへんこつちやけれども……とブリ/\しながら、ふと二階に物音がするから上つてみたところが、関さんが戻つてゐて、掃除をしたり、碁盤をふいたりしてゐる、と言ふのであつた。いゝぢやないか。戻つて来たのなら、おいておやり。僕は布団を被つてしまふ。午《ひる》頃起きて階下へ行くと、関さんは甲斐々々しく襷などかけ、調理場の土間にバケツの水をジャア/\ぶちまけて洗ひ流し、ついでに便所の掃除までしてゐる。ふだんなら、碁席の掃除まで怠けて、拭掃除など決してやらぬ人なのだ。
 一度は伏見の呉服屋へ番頭につとめてゐたのださうだ。番頭も大袈裟だ。多
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