ボク雲隠才蔵ですが、で、あなたは?」
「ほかのお方は、どうなさいましたか」
「報告のため東京へ戻りまして、今はボク一人ですが、何か御用ですか」
「アタシはこういう者ですが」
 と差出した名刺を見ると、石川組渉外部長、サルトル・サスケ、とある。
「石川組と仰有《おっしゃ》いますと」
「実は社長からの使いの者でざんすが、こゝに社長の名刺を持参してざんす」
 これを見ると、国際愛国土木建築、石川組社長、石川|長範《ちょうはん》。ズッシリと百円札ほど重みのこもった名刺であった。こういう名刺をいたゞくと、いくらか涼味がさすけれども、心ウキウキとするものではない。
「で、御用件は?」
「そこのタチバナ屋が社長の常宿なんですが、ちょっと御足労ねがいたいので。話は社長から直々あるだろうと存じやす」
 薄気味のわるい相手だが、何とかなろうという才覚には自信があるから、腹をきめると、わるびれない。サスケの後について、でかけた。とは云うものゝ、マニ教の霊力よりも石川組のメリケンの方が魂を手ッとり早く抜きとる実力があるだろうから、才蔵も内心はなはだしく安らかではなかった。
 案内された部屋は、渓谷に面した特別
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