と、神様のイブキをかけた。それから、ダダダ、ダダダ、とひとり八方に荒れ狂う跫音。やがてピュッと何物か切る音とともに神の使者が着《ちゃく》したらしい。
「お立ちイ」
という声がかゝって、みんなが頭をあげた。正宗菊松だけは、そう心易く頭があげられない。
「もう、いゝんだよ、お父さん」
と、今日も半平にさゝやかれて、ようやく頭を上げた。
「正宗は、今日は敬神の念を起しておるな」
と、神の使いが鋭く見すくめて云った。
「ハイ」
正宗菊松は万感胸元につまって、たゞ、たゞ、平伏するのみ。
「実はです。お父さん、非常に感動したもんで、今朝はオネショやっちゃッたんですよ。これがお父さんの悪い病気でしてね。会社の重役やりながら、寝小便をたれているんですよ。子供のオネショと違って、お酒をのむから臭いッたらないでしょう。おまけにバケツ一杯ぶちまけたぐらい垂れ流すでしょう。秘書たちがね、こればッかりはツライッてね。旅先じゃア、お父さんの恥だから、気をつけているんですけど、ゆうべ、ボク、疲れちゃって、夜中に起すのを忘れちゃッたんですよ。だもんで、今朝、やっちゃったんです。神様の御力で、これを治していたゞ
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