この国に三人も秘書をつれてブラブラしている重役がいるかッてんだ。秘書だったら秘書同志じゃないか。婦人秘書をこッちへ渡しゃいゝじゃないか。独占てえ法はねえや。アン畜生、ヤキモチやいてやがんだ、なア」
「うるせえな。ヤキモチやいてんの、お前じゃないか」
「チェッ。お前は目があっても節孔《ふしあな》同然だよ。半平の奴、ふてえ野郎じゃないか。明日東京へ戻って指令を待て、なんて、尤もらしいことオレに言ってやがるよ。なんとかして、オレをツルちゃんから遠ざけようてえコンタンなんだ。働かすだけ働かしやがって、なめてやがるよ、なア」
「うるせえなア。お前はヤミ屋の仕事に打ちこんで月給もらッてりゃいいんだよ。オレは写真を撮りゃいゝんだ。女の子の一人二人よろしくやるだけの腕がなくッて、ヤミ屋がきいて呆れらア」
「チェッ。見ていやがれ。東京へ帰れッたッて帰るもんかよ。半平の野郎め、ギョッと言わせてくれるから」
「アッハッハ。勝手にしやがれ。しかし、仕事を忘れるな」
年のせいか、坊介は落着いていた。しかし簡単に年のせいでは済まないことを、正宗菊松は肝に銘じてもいたのである。半平や天草次郎の落ちつきは、どうだ。
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