々として仕事に没入する彼らの溢るゝ生活力は驚異であった。
「畜生め。どうしてくれたら腹の虫がおさまるのか」
 やにわに飛び起きて、ねているチンピラ共を蹴倒し、踏みつぶして、魂をぬいてやりたいと思った。この世には悲しい思いがあるものである。

   その四 寝小便の巻

 正宗菊松はふと目がさめた。襖《ふすま》を距てた隣室へ誰かゞ戻ってきたのである。酔っ払って、ドタバタと重い跫音がもつれている。
「半平の奴、ひどすぎるじゃないか。なにも女の子を隠しだてすることはないよ。なア、坊介、そうだろう。ツルちゃんが好きなら好きでいゝけどよ、ノブちゃんまで一緒につれだして隠すことはないよ。なア」
「うるせえな。なん百ぺん言ってやがんだい。やくんじゃないよ」
 こう雲隠才蔵をたしなめたのは坊介である。
「チェッ。女房ぐらい、もったって、威張るんじゃねえや。落着いたって、偉いことにならねえや。半平の奴、ツルちゃんと仮の兄妹だなんて、鼻の下をのばしていやがら」
「よさねえかよ。やきもちやきめ」
「チェッ。お前も三十|面《づら》さげて、あさましい野郎じゃないかよ。秘書なんかにされて腹が立たないかッてんだ。ど
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