る。育ちのよい坊ッちゃんが腹に思っていることをみんなヌケヌケ喋っている気安さであった。彼は悠然と、まだ喋りつゞけた。
「ボクら、若い者でしょう。遊ぶことは考えるけど、信心なんか、ほんとはないのが本当でしょう。でもね、オヤジがこんな風だから、つきあわなきゃ勘当されますよ。ですからね、ボクらは神様にお目にかかって、どんな人だろうなんて、そんなことしか、考えられないですよ。ねえ」
「軽々しく神の御名をよんでは不敬である。凡人が神にお会いできるなぞと考えては不敬千万である」
 神の使者は静かにさとした。眼光は鋭かったが、先刻の凄さはもはや見られない。今度は説教師の様子であった。
「信徒が神様にお目通りできるまでには、何段となく魂の苦行がいるぞ。御直身《ごじきしん》と申して、神様につぐ直《すぐ》の身変りの御方。この御方にお目通りするまでにも、何段となく苦行がいる。お前らはイブキをうけ、ミソギをうけたから、信徒として、許してつかわす。毎日通ううちに、身の清浄が神意にとゞいたら、御直身がお目通りを許して下さるだろう。神様のお目通りなぞは二年三年かなわぬものと思うがよい。今日は立ち帰って、明日出直して
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