あいた。
白河半平がニヤリと笑った。当りまえさ、という顔であった。そして彼は、痩せッぽちの胸をグッと張って、腕組みをした。戦意たかまり、自信満々の様子である。
正宗菊松も戦闘にそなえて胴ぶるいをし、半平にまねて、胸をそらした。何か電気のようなもので、いつも半平に急所々々で気合いをかけられているようであった。自動車はスルスルと邸内へすべりこんだ。
その三 魂をぬかれて信徒の列に加えられること
献納の品々が仮本殿の内へ運びこまれる。ヨイショッと四斗俵を担いで運びこむのは才蔵と坊介、平山ノブ子は天草物産の製品を蟻のようにせわしなくセッセと持ちこむ。才蔵と坊介はとって返して酒ダルを。醤油ダルを。武芸者のようにいかめしく構えた教祖護衛の面々もポカンとしているテイタラクである。
ミヤゲ物を運び終ると、才蔵と坊介が正宗菊松の左右から、
「さア、どうぞ、常務」
と敬《うやうや》しく、うながす。もっぱら常務に敬意を払って、マニ教を自宅のように心得たなれなれしさ。するとノブ子がツと進みでて、常務の靴のヒモをときはじめる。
正宗菊松は自然に内部へあがりこみ、尚も才蔵、坊介にみちびかれて
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