いけないわ。そんな二千万円よりも、二千円のサラリーがどれくらい尊いか知れないわ」
「それは、仰有る通りです」
「天草商事の悪者たち、二千万どころか、二千円だって、支払うものですか。泥棒ですもの」
「まさに御説の通りですとも。それゆえ、雄心ボツボツ。支払う筈のない旦那方に、必ずや支払わせてみせるというタノシミが生れてくるのですな」
「そんなの、ヤセ我慢の屁理窟よ。悪者をこらしめるのは結構ですけど、こらしめるだけでタクサンだわ。お金もうけをそれに結びつけるなんて、卑怯な考え方よ。たぶん、高利貸の思想よ」
「なるほど」
「あなたは、もっと、立派な方です。正しい方法で、成功できるお方なのよ。同じ努力ではありませんか。ギャングのスリルを愛すなんて、よこしまな人生よ」
 リンリンとせまるツル子の気魄。その瞳にするどく光り閃くものは、怒りでも、恨みでもない。乙女の祈りが切々として燃え閃いているのだ。
 ツル子の高貴な魂がサルトルの胸にくいこんでくる。彼女の四辺《あたり》には冷めたく冴えた香気があふれているようだ。このサルトルは虚無党でもなく、木石でもない。一目見たときから心を惹かれ、知れば知るほど香
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