になし。山吹の里の故事かなんか、もじりたいところですね。ガマはちょッと、グロテスクではないでしょうか」
「ヤ。まったく赤面の至りです。以後は深く気をつけることに致します」
「ここ掘れワンワンだから、灰を入れておくのも面白かったかも知れませんね。しかし、蛇や毒虫のはいったツヅラを埋めておかれなくて、助かりましたね」
「とても、そこまでは手が廻りません。蛇も毒虫もキライでして、とてもツヅラにつめる勇気がありません。ガマ一匹が精一パイのところで」
「では、サルトル君。一場の茶番を終りましたから、改めて商談にはいりましょうよ」
半平はニヤリニヤリと、相変らず、たのしそうである。
不撓不屈。飛んでは落ち、落ちては飛ぶ。小野道風の蛙。これが半平の信条である。蛙であるから、顔に小便かけられても、いつも涼しい顔なのかも知れない。
半平は戦意にもえると、益々ニヤリニヤリと、そして、下っ腹にグッと力をいれる。そして戦闘佳境にいるや、ヤセッポチの肩をいからせて、グッとそりかえって、腕をくむクセがあった。
彼は今や、腕をくみ、ヤセッポチの肩をいからせて胸をはって、ニヤリと笑ったが、サルトルときては常にニコニコしているだけで、一向に戦備をととのえた風がない。
「ボクの方は第一回目の宝探しに負けましたから、今度はサルトル君の提案に応じましょう。阿片と金を交換する場所と時日について、あなたの条件をきかせて下さい」
「そう仰有っていただきますと、恐縮いたすばかりです。先日も申上げました通り、私は宿命論者でありまして、この仕事は私ひとり、相棒がおりません。多勢に無勢ということがありますから、どんな条件をだしましたところで、してやられる時は、してやられます。まア、人が見たらガマにするぐらいのことはできますが、皆さんがこうと覚悟をきめられた上は、私がガマにされるだけの話でざんすな。これを宿命と申しまして、この危険を承知の上で、相棒なしに乗りかけた仕事ですから、余儀ない宿命であるならば、ガマになって果てましょう。二千万円か、ガマか、私のようなガサツ者には手頃な宿命でざんすな。もう、もう、決して、どなたも恨みはいたしません」
ニコニコと、いたって愛嬌がよいばかり、一向に力んでみせないから、腕をくんで胸をグッとはった半平も、ノレンに腕押し。しかし、決してひるむことのない半平の身上であった。
「ハハア。なるほど。あなたはイサギヨイ方ですねえ。しかし、ボクらも宝探しはやりましたけど、風流のタシナミもありますから、さっきもお話しましたように古歌の志を忘れませんよ。もっとも和歌に秀でた武人もいますが、ボクらは戦争はもうタクサンですから、憲法の定むる通り、戦争ホウキですよ。あなたの方で交換の場所と時日を示して下さい。若干の平和攻勢はいたしますが」
「平和攻勢と仰有いますと」
「つまりですね。ネギルとか、分割払いとか、そういう商取引上の慣例による攻勢ですね。これは仕方がありませんね」
「なるほど、よく分りました。私は宿命論者ですから、一度きまった宿命を変える意志を所持しておりません。それで、先日お約束申し上げました通り、皆様方のお好きな時日に、ホンモノの阿片を埋めた地点に於きまして、取引する気持に変りはございません。皆様方の平和攻勢の方をうかがわせていただきましょう」
「千万で、いかが」
サルトルはニコニコと、
「宿命は、変えられません。二千万か、ガマか」
「なるほど、宿命論をお見それして、すみませんでしたね。それでは、二千万として、分割払い」
「分割払いと申さずに、分割売りと申すことに致しましょう。正確に金額の分量ずつ販売いたしますのが当店の方針でざんす」
「お堅い商法で、結構です。それでは、さっそく、本日、十万円だけ、いただきましょう。あんまり少額で失礼ですが、よろしいですね」
「それは、もう、いったんお約束の上は、万事宿命でざんして、十万円でも、本日さッそくでも、イヤとは申しません。これから出かけますと、いくらか暗くなりますが、これも宿命、ツユいといは致しません。では、さッそく出発いたすことにしましょう」
サルトルは全然ニコヤカで、百貨店の販売員のように愛想がよいばかり。
さッそく一同は立ち上る。ツル子は半平に向って、
「私は?」
「そうだなあ。紅一点まじる方が風流で、サルトル君も安心なさるでしょうね」
サルトルは半平を制して、
「イヤ、イヤ。夕闇の山林中の秘密の取引に、可憐なお嬢さんをおつれ致すのは、かえって風流ではありません。お嬢さんは箱根の旅館で待っていただくことに致しましょう」
「じゃア、ツルちゃんは、ここで待ってるのがいゝや。箱根まで行くこと、あるもんか」
才蔵が、むくれて、口を入れる。
半平は高笑い。
「雲さんはツルちゃんのこととなるとムキに
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