気あふるる品位の高さに、目をみはり、心をうたれているサルトル、さすがにツル子の眼力たがわず、ホンゼンとして正道に立ちかえる大勇猛心は多分にもっている。
「よく分りました。つまらぬ気取りの人生でした。本日、ただ今から、正道に立ちかえりましょう」
 バカに手ッ取り早い。
「御訓戒、身にしみて忘れません。サラリーマンでも土方でも、御指図通り、なんでも、やります」
「うれしいわ」
 感無量。ただ感謝の一言。サルトルの発奮感動、いかばかり。
「でも、サルトルさん。天草商事の悪者たち、こらしめてあげてちょうだい。私もお手伝いするわ」
 キラリと閃く目。
「ハ。こらしめるというと?」
「悪漢はとッちめてやる必要があるのよ。つけ上らせちゃいけないわ。名案、考えてちょうだい。あなたには、あの悪者たちをこらしめる力が具ってるのよ」
「そうですかな。お金をまきあげちゃアいけないルールですな」
「そうよ。腕力も、いけなくってよ」
「新ルールは、むつかしい。エエと。御期待に添わずんば、あるべからず」
 サルトル、必死に考えて、ポンと膝をうち、
「ありました。ありました」
 ボシャ、ボシャ、ボシャ、と密談。
 ツル子はおなかを抑えて、ふきだしてしまった。
「では、手筈をととのえてきましょう」
 と、サルトルは意気ヨウヨウと、いずれへか姿を消した。

   その十五 計略大成功のこと

 翌日。
 二人は正午かっきり、小田原の天草商事の別荘へつく。
 こちらは、天草商事の面々。
 才蔵にみちびかれて、三羽烏が山林の奥へと、さまよっている。
「オイ。シッカリしろ。まだ見当がつかないのか」
「よせやい。いつもと別の方向から忍びこんできたんだもの、カンタンに見当がつかねえや。第一、サルトルを甘く見ちゃ、いけないよ。ツルちゃんを張りこませたって、どうなるものか。埋めかえなら、早いとこ、昨日の昼うちに、やらかしてるよ。アイツのすばやいッたら、ありゃしねえや」
「アッハッハ。ツルちゃんが心配で、目がくらんでやがら。仁丹でも、やろうか」
「よけいなお世話だ」
 しかし、さすがに才蔵、目から鼻へぬける才覚、たとえ密林の中でも、一度覚えた目ジルシは忘れない。
「わかったよ。ここだ」
 掘ったあとがハッキリして、すぐ分った。
「雲さんよ。ほってくれよ」
「バカにするない。オレは案内人だい。半平、自分で、ほりやがれ」
「ハッハッハ。雲さんゴキゲンナナメだね」
 半平、かがみこんで、ほる。
 すぐ一枚の板がでた。何か、書いてある。
「アレ。なんだい。これは。ヤヤ!」
 半平はガクゼンとして、一同に板を示した。文字に曰く、
「もっと掘れ。ワンワン」
「ウーム」
 一同、声をそろえて、一唸り。
「チキショウメ。してやられたか。しかし、そうだろうな。これぐらいのサテツは覚悟してなきゃアいけないよ。品物が品物だもの。サルトルさんもムザとは渡すまいさ。戦意ボツボツ。戦いは、これからさ」
「もっと掘れ、とあるから、まア、掘ってみろ。敵の策は見とどけておけ」
「ウン、そうだ」
 半平は、すぐ、ほりつづけた。戦意とみに湧き立ったせいらしい。
 ついに一つのカンがでた。中をあけると、ガマが一匹はいっている。
「アッハッハ。人が見たら蛙になれ、というシャレだね。たいしたシャレじゃアないな。サルトル氏の風流精神は、かなり月並らしいや」
 半平は、ちッとも腹を立てない。面白がっている。
「しかし、重い品物をそう遠方へ運ぶ筈はないから、手分けして、探してみようよ」
 そこで手分けして歩いてみたが、それらしい土のあとは見当らない。
「よろしい。しからば、いよいよ、小田原合戦だよ。ツルちゃんが待ってるだろう。雲さんや、ツルちゃんに、じき、あえるぜ」
「よしやがれ。あいたいのは、テメエじゃないか」
 車をいそがせて、小田原の別荘へついた。
 二人の姿は見えない。
「二人は、どうしたの」
 と留守番にきくと、
「ハイ、映画見物におでかけです」
「なるほど。ボンヤリ待ってもいられないだろうな」
 待たせる身が、待つ身になった。散々待たせて、現れた二人。
 サルトルは、いともインギンに挨拶して、
「ヤ。まことに本日は遠路のところ御足労で。社長はじめ重役陣、直々の御来臨、光栄この上もありません。わりに、早いお着きで、恐れいりました」
「アッハッハ。サルトル君は月並なシャレが好きですね。しかし、あなた、動物学上、ガマはガマ、カエルはカエルでしょう」
「イヤ、恐れいりました。無学者で、いつも恥をかいております」
「しかし風流を好む精神は見上げたものですよ。バクダンを仕掛けておくとか、人糞を埋めておくとか、えてしてやりがちなものだけど、あなたは風流ですねえ。しかしボクでしたら、一もとの山吹をいれてね。花はさけども、実の一つだ
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