、私が好奇心で見たがってると思ってらっしゃるでしょう。識別なんてことを云えば、見破られてしまうわ」
「なるほど。そうだな」
「雲隠さんでしたら、今までの行きがかりで、変じゃないから、一しょに見せて下さるように頼んであげていゝと思うわ」
「それだ。それに限るが、雲さんや。キミ、阿片見たことある?」
「見たことあるかッて、バカにするない。雲隠大人《エンインダーレン》といえば、中国じゃア鳴らした顔だい。阿片ぐらい知らなくって、どうするものか。黒砂糖みたいなもんだよ」
「フン、そうかい。こいつは都合がいゝや。じゃア、ツルちゃん、サルトルをうまくまるめて、二人で見とどけて下さいね」
 ツル子の思う通りになった。
 才蔵はツル子の本心を知らないから、シメシメ、万事思う通りになった、箱根でツル子をわがモノにしようと、これも内々ほくそえんでいる。
 ツル子はサルトルに逐一報告して、計画をねった。
「雲隠さんを信用しちゃ、いけなくってよ。とても腹黒い人だから。才気にうぬぼれているから、だまして使えば、調法かも知れないわ」
 ずいぶん人の悪い観察をする。これでは雲さんもやりきれない。
「私、おねがいがあるのよ。箱根へ行ったら助けていたゞきたい人があるの。今マニ教にカンキンされているんですけど」
「ハヽア。なるほど。寝小便の重役ですな」
「えゝ、そうよ。でも重役というのは、ウソなのよ」
 ツル子は正宗菊松を重役に仕立てゝ、マニ妙光様の生態を撮影したカラクリを説明した。たとえ三日の間でも、お父さんとよんだ寝小便じいさんを、魂をぬかれッ放しにカンキンしておく無慙さには堪えられない。
「天草商事のチンピラときたら、それはとても残酷な悪漢なのよ。あれほど利用しておきながら、助けてあげる計画などは相談したこともないのよ」
「なるほど。きけばきくほど、骨の髄からの新興財閥ですな」
「あんな悪者たち、いけないわ。私たちは善人だけの会社をつくりましょうよ。そして、正宗さんを本当の重役にしてあげましょうよ。心の正しい、お人好しなのよ」
「しかし我々の計画は善良なものではありませんな」
「そんなことなくってよ。はじめてお金をもうける時は、どんなことをしてもいゝのよ。お金ができてから、紳士になるのよ。それが当然なのよ」
 ひどい当然があったもの。しかし、これが、案外、当今の真理かも知れない。

   その十二 正宗菊松神様となること

 サルトル、才蔵、ツル子の三名は箱根へついた。
 サルトルは石川長範に報告して、
「イヤ、どうも。敵もさるもの。一筋縄では手に負えぬ曲者です。アタクシも社長に広言をはいた手前がありますから、かくなる上は討死の覚悟で一戦を交えることに致します。いさゝか戦闘は長びきますが、当分の間、アタクシをこの仕事に専念させていたゞきたいので、一向に華々しい戦果もあげえず、ムダに時間のみ費して恐縮ですが、アタクシも後へひくわけには参りません。戦果なき時は、いさぎよく責任をとりますから、ここはアタクシに一任していたゞきたく存じます」
「よろしい。キサマを見込んで一任するが、立派にやってみい。オレは東京へひきあげるから、後はまかせる。しかしキサマ、すごい美形をつれてきたそうだな」
「ハア。あれなる美形は敵の間者で」
「間者?」
「シッ。声が高い。アタクシの眼力に狂いはありません。敵の策にのると見せて、当地へつれて参りましたが、間者というものは、これを見破っている限り、これぐらい調法な通信機関はありませんな。こちらで、こう敵方へ知らせたいと思うことを、ちゃんと敵方へ報告してくれます」
「ミイラとりがミイラになるなよ。キサマの相には、女に甘いところがある。見るに堪えないところがあるぞ」
「ハハッ。相すみません。充分自戒しておりますから、御安心のほどを」
 そこで石川長範は愛妾とゴリラをつれて帰京してしまった。
 サルトルはツル子への約束、正宗菊松を助けてやりたいと思うから、マニ教の神殿へ偵察におもむいた。
 石川組の社長の片腕であるから、神様も粗略には扱わない。内務大臣が自室へ招じ入れて、
「ナニ、正宗のことについて、話があるとな」
「ハッ。実は社長に後事を託されまして、命によって伺いましたが、天草商事も左前の様子で、身代金がととのわず、社長も間に立って困却しております」
「イヤ、それはイカン。身代金というものは神示によって告げられたもので、神の御心である。神の御心であるから、俗界と違って、ビタ一文、まけるわけには参らぬ。左様な不敬は相成らぬぞ」
「それはもう重々心得ておりますが、俗に無い袖はふれぬ、と申しまして、神界と俗界の結びつきは、まことに、むつかしゅうございますな」
「しかし正宗には当方も困却しているぞ。匆々に身代金をたずさえて引きとってくれなければ、当方
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