小さく配給されたんじゃア、孤立して貧寒だねえ。丸ごと銘々で切りくずして行くところに、銘々が同じ血をわけ合っているというアタタカサが生れて盟友のチギリを感じるのだね。蒙古のジンギスカン料理は羊を丸ごと焼いちまわア。ジンギスカンはさすがに料理の精神を知っとるね。石川さんは、なんですか、小皿に配給された料理がおいしいですか」
長範親分、言葉に窮してしまう。
「サア、のみねえ」
と、仕方がないから、グイとあけて、しきりに杯をさす。
「ハイ」
と言ってカンタンにうける。うけるけれども返さない。のまないのである。飲むのは雲隠才蔵だけだ。
サービス嬢は心得たもの。杯を一山つんで待機している。返盃の代りに新しいのでお酌する。三羽ガラスの前には、のまない杯がズラリとならんでいる。
「返盃したまえ」
と長範親分がサイソクすると、無造作にお皿へ酒をぶちまけて、
「ハイ」
と返す。酒をのむとか、のめないとか、杯をさすとか、返すとか、酒席の下らぬナラワシにはゼンゼンこだわるところがない。自分の食慾のおもむくまゝに楽しめば、つきる、という悠々天地の自然さであった。
三羽ガラスは、よく食う。実に食慾をたのしんでいる。もっぱら食慾にかゝりきって、骨をシャブッて玩味し、汁をすくって舌の上をころがし、両手から肩、胸の筋肉を総動員して没入しきっている。そして、ほとんど口数がない。
最後に特大の重箱にウナギの蒲焼がワンサとつみ並べて現れる。酒のみがウンザリするような大串。これがゴハンのオカズであった。
「アア、これだ。待っていたよ」
と、半平は大よろこび。三羽ガラスは蒲焼にとびかゝるようにして、飯を食うこと。
長範親分、ことごとく勝手が違って、酒がまずいが、そこは大親分のことで、今日は商用、これが第一の眼目だ。ツキアイに軽く食事をしたためて、
「明朝八時半にここへ迎えの車をよこすから、山を見廻って、箱根で中食としようじゃないか」
「八時半じゃ、おそいな」
天草次郎はこう呟いて腕時計を見ながら、
「ボクらはたいがい七時ごろには仕事にかかる習慣で、朝ボンヤリしているほど一日が面白くなくなることはないな。旅先では、ことにそうだね。早く目がさめるからな。六時には起きて顔を洗うから、七時半前に底倉へつくだろう。自動車はボクらのがありますよ」
「それは好都合だ。オレも朝は早い。五時には起きて、冷
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