返事の仕方がおくれた、ちょッと言いよどんだと云って兵隊をヒッパタク、蹴とばす、そういう秩序の方がよっぽど道義タイハイじゃないか。権力によって人間を征服し飼い馴らす秩序が何物であるか。
ヤミ屋だのパンパンだのと敗戦の天然自然の副産物は罪悪的なところは殆どない。我々小人の日常には、やむを得なければ立小便もやる、急ぐ時は信号を無視してかける、ヤミ屋やパンパン程度の罪は万人が殆ど例外なく犯している。
これにくらべれば、自ら大罪を自覚して犯しながら美名をつくることを知り、法律の裏をくゞる用意を知り、権力を利用することを知り、依存することを知り、国法を利用することをも知る、政治家の罪悪などは比較にならぬ悪ではないか。
世耕事件は今日に始まるサギの性格ではない。いつの世にも、サギはあのようなものであり、政治の裏側には似たようなことが行われていた。マーケット座の親分が一千万円献金して公認候補になったという。そういう事柄がサギの母胎ではないか。サギの性格を助成するものが政治の在り方ではないか。
パンパンやヤミ屋を憎み咎める声は巷に溢れているが、かゝる政党の在り方を咒う声は殆どない。なぜである
前へ
次へ
全26ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング