現代とは?
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)怪《け》しからん
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 伝統の否定と一口に言うけれども、伝統は全て否定しなければならぬというものではなくて、すでに実質を失いながら虚妄の空位を保って信仰的な存在をつゞけていることが反省され否定されなければならぬというだけだ。実質あるものは否定の要なく、又、伝統に限らず、全て、実質を失いながら虚妄の権威を保つものは、反省され、否定される必要があるだけだ。
 時代の流行というものは、常に多分に、伝統と同じぐらい空虚なものであり易い。それというのが流行を支える大多数の個人が決して誠実な省察を日常の友とはしていないからで、尚いけないことは、時代の指導的地位にある人々、ジャーナリスト、教授、執筆者、必ずしも誠意ある思索家、内省家ではない。
 例を私の身辺にとっても、大多数の人々は読みもせぬ小説を批評しているから、魔法使いのようなものだ。×なんて作家つまらんですな。君よんだのかい。いゝえ、みんなそう言ってますよ、とくる。肉体の門て怪《け》しからんエロ芝居ですね。君見たのかい。いゝえ、エロだから見ないんです。私
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