現実主義者
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)輓近《ばんきん》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)そも/\
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輓近《ばんきん》日本帝国に於きましては実子殺しとか若妻殺しとかその他色々賑やかな文化的事件があります。私自身はそれによつて毎日の新聞が退屈なしに読める以外に重大な意味を感じたことはありませんが、ある一日の新聞に当今有名な一批評家が実子殺しを云々して、かかる事件は実際あつてみなければ想像もつかない事件であつて、わが帝国の尊敬すべき写実主義者は(彼の言葉によれば小説家は、といふことになるのですが)この稀有な出来事に遭遇した幸福を逃すことなく直ちに之を描破せよ、と斯様に教訓を垂れてをるのを読み、感涙にむせばずにはゐられぬ始末であつたのです。
私が笑話作者なら、結構これだけで一篇の笑話なんです。あとは蛇足ですけれど、当今文学は笑話以上に執拗な蛇足なしに左側通行もできない有様でありますから、言葉を少々続けます。
小説の世界にありましては、それが実際に何時起らうと起るまいと、実子殺しも実父殺しも若妻
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