へ行つても仕方がなからう。このへんをぶらぶら歩いてみよう。妙になんとなく歩いてゐたいのだから」
「さうかい。なんとなく君にも来てもらひたい気持なんだが、ぢやア、仕方がない」
二人は右と左へ、京二郎はあとへ戻りかけると、安川がふりむいて、
「おい、くることができないのか。一しよにくる気持にならないかな」
「ならないな、別に当もないけれども、今夜はもう今夜きりぢやないか。思ふやうにしてみるほかに仕方がない」
「さうか」
京二郎が一しよに来てくれないせゐだと安川は思つた。このまゝで行くと、どうしてもトキ子を手ごめにすることになる。決意とも違つてヤケクソ、捨て身、さういふものだ。それを警戒して誘つてゐるのに京二郎が来てくれないから、どうしても、さうならずにゐないだらう。こんなふうな甘へたやうなヤケな気持で遠い昔に道を歩いてゐたことがあつたやうな気がする。幼いころ、母に甘へ、母に怒り、さういふヤブレカブレで。
トキ子の母に会ひトキ子に会ふと、気持は別人のやうに落付いてゐた。然しトキ子を散歩につれだして町外れの河原へでると、ふとした情慾の念をきつかけに支離滅裂な逆上が起つた。嫉妬かと思へば絶
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