はや又絶望、喪失と落下と暗黒と氷結にとざゝれてゐる。すると又、にわかに怒りに狂ひ、又喪失と落下と暗黒。さういふ繰返しの波がひいて現れてきた自分も、然しもう先程までの自分とは違ふやうな、なぜとも知れずハッキリ分る差の感覚が、まことにイヤらしくこびりついてゐるのであつた。
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その日のひるまは三人そろつて町へでたついでに、星野家へ挨拶に立ちよつた。妙信と京二郎ははじめての訪問で、ちよッと上つてお茶をのんできたゞけだつた。
その夜は集会所で送別会がひらかれ、例の如き気違ひ騒ぎ、他の隊員には血相変りたゞならぬ者もゐたが、三人組はふだんの通りで、妙信は清元をうなりカッポレを踊り、次には素ッ裸でヤッコサン、京二郎は例の如く全然黙々たるものであり、安川も途中まではふだんと変らなかつたが村山中尉が酔つ払つてやつてきて酒をさして、
「ヤイ、貴様が先陣とは面白い。立派にやれ。ひとつ、のめ」
横柄であつた。むろん階級の差も年齢の差もある。無礼講もその差は一応当然でカンにさわる筋はなかつたが、二人のつながりは軍人としてゞはなしに、人間のもので、そのつながりの上だけでの交際なのだか
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