かに両手で頭をかかえて、
「アアッ!」
 と、断末魔の一声をふりしぼって、ぶッ倒れ、空虚な目をやがて力なく閉じて、
「オレは死んだ方がいいや」
 背中をタタミへすりつけるようなモガキ方をして、やがて全然動かなくなる。
「フーッ」
 鯨のような溜息を吐いてモゾモゾ起き上り、
「アア。もうダメだ。オレは泣きたいよ。イヤ。泣く涙もでないや」
 フラフラといずれへかよろめき去る。また、よろめいていずこよりか戻ってくる。私たちが彼に話しかけても、その声が彼の耳にとどくことはメッタになかった。
 平山中尉の疑い深い招請に応じたおかげで、悩める人間がどのような発作を起すかということをツブサに見学することができたのである。この時以来、上京のたびにここへ宿泊するようになった。
 酔っぱらっていた私は初対面のオカミサンを二十六七かときいて女中に笑われてしまった。彼女には二十すぎた子供がいるのである。
 オカミサンは十九になった息子に、
「あなたはもう大人だから親の世話になってはいけません。自分の力で工夫して食べて行きなさい」
 と、なにがしかの資本金を与えた。見たところはただワガママなお嬢様育ちという愛く
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