えて下さッたんですねえ。光栄の至りです」
係りの女中は何もしらないから、いそいで自分もユカタの模様をしらべて、ああ、そうか、それじゃア棋士の好きなオカミサンが大山新九段を祝って、かねて注文しておいたユカタだったのかと思った。偶然ながら、一番手近かに置いてあったのを持ってきて、ちょうど良かったと思ったのである。
「そうですわね。オカミサンがこしらえておおきになったんですわね。ずいぶん気のつくオカミですから」
「光栄です」
小男の大山は自分の身体が二ツもはいりそうなユカタの中へ、満足に上気して、いそいで襟をかきあわせた。全身にあふれる幸福を一ツも逃すことなく全部包んでしまいたいように、アゴをすッぽり襟でつつんだ。アゴの上にユカタの襟がでていてもまだその裾をひきずりそうであったが、彼はそんなことが苦にならなかったのである。彼はモミヂにいる間、その大きなユカタにつつまれてバタ/\足をからませても満足していた。
帰るとき彼は女中をよんで、
「これ、いただいて帰っていいでしょうか。記念に持って帰りたいのですけど」
「ええ、どうぞ」
「光栄ですねえ」
彼は自分でテイネイにユカタをたたんでトラ
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