なに似てるのかな。とがつたところはエビみてえなところもあるな。当人だつて心得てるんだから、むやみやたらに美人と云つたつて疑るよ。だから、私はかういふ顔が好きなんだ。とても可愛いゝ、とかういふのです」
「罪だわよ、旦那、この子は本気にするからね」
「だからさ、この子を本気にさせてやらなきや、因果物の気質がぬけやしないぢやないか」
「この子はノボセ性なんだよ。すぐもうその気になるからね。私や困るわよ。旦那、すみませんけど、ギセイのついでに、この子をオメカケにしてやつて下さいな。高いことは申しませんよ」
「いけません、いけません。芸術は私有独専しちやいけない。この子はすでに失恋に日頃の覚悟もあることだから、天分を育てるために私たちは力を合せる、この子と私がちよッと懇になつたりするのを、オバサンは我が子の天分のためと思つて、ひそかに喜んでくれなきやいけない」
 うまいことをいつてゐる。
 最上清人はもうその場にはゐなかつた。彼はもはや全然ヒマといふものが心にないから、御開帳のオツキアヒなど、もどかしくて堪らない。お衣ちやんの鎮座をたしかめて、コック場でセカセカ、用もないのに、たゞむやみに心が多
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