ヨシ子さんですか。ヨッちやんだな。ヨッちやんや。あなたは美人だなア。私はさういふ顔が好きなんだ。腹のイレズミも見事だけれども、あなたの顔には及ばない。ネンネはよしませう。オッキして、ホガラカに飲みかつ談じようではありませんか」
と倉田が肩に手をかけるのを、押しやつて、
「よくしやべる奴ぢやないか。おしやべりする奴、きらひだい。さうでもないや、おしやべりする人、私や好きなんだよ」
顔を起して倉田を見定めてゐたが、
「あとで一緒にのむからね。ちよつと、ねむるよ。あんた、バカにしちや、だめよ。知つてるからさ。いゝとも、ふられてやるから。ちよいと、あんた、手をかしてよ」
倉田の手を握つて、ねむつてしまつた。
ヨッちやんは陰毛がなかつた。そのはづかしさを思ひつめ、強迫観念になやまされたが、友達の話にヒントを得てひそかにイレズミをやつた。結婚して追ひだされ、いつからか酔つ払ふと親の前でも御開帳をやるやうになつたといふ話であつた。
「それは悲痛な話ぢやないか。然しそれ故これをそのまゝ悲痛と見たんぢやいけない。オバサンの曰く、ギセイ、それです。私もまたギセイと見ます。運命のギセイ、その意味ぢや
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