実に遊楽する境地がなきや納得できやしませんです。戦争と兵隊は養命保身の至極の境地でして、なぜなら戦地における兵隊はあしたの食事の心配がいらない。米もない。酒もない。タバコもない。腹ペコでも、あしたのことは天まかせてえのは宇宙的なる心境でして、雨が降るみたいにお酒の降る日も女の降る日も肴の降る日もあるといふ夢と希望に天地を托す、一向に降る日のためしがなくとも天地を托してをるものでして、戦争と兵隊はまつたく宇宙そのものですな。魔法のラムプとか、ヒラケゴマとか、夢と人生をそこに托す、下の下ですよ。なぜなら所有するものは失ふです。兵隊は何も持たない。魔法も咒文も持たないです。だから宇宙を持つのです。しかるに天妙教が、すなはちその正体は戦争と兵隊でして、持てるものはみんな神様にさゝげる、田を売り払ひ屋敷を売り払ひ全部さゝげる、よつて宇宙を所有する、タイコをたゝいて踊つて、養命保身、深遠なるものですよ。酒店もまた養命保身の神域なんでして、持てるものはみんな酒店にさゝげる、よつて宇宙を所有する、お客様の心境をそこまで高めて差上げなきやいけませんや。けれども人間のあさましさ、一パイごとに女房を思ひ子を
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