ゞそれだけのことなのである。その日から私はこゝで飲むことにした。ところが三日目に、この店でも変つたことが起つた。
オコウちやんはもうオナカが大きくなつてゐた。すると宿六もすでに一国一城のあるじとなつたから何百年前からの仕来りでダンサーをお妾にしてよろしくやつてゐたのをオコウちやんが嗅ぎだしたから、覚悟をしろと、百万円ほどの札束をさらつて大学生と駈落に及んでしまつたのである。
私は聴いたまゝ見たまゝ有りのまゝ書いたゞけの話で、これからどうなるのやら、幸、不幸、誰の運命も分らない。
私が小便から戻つてきたら、置き去られの宿六先生、コックと給仕人と両方忙しく立廻りながら、
「これぢやア又、ハキダメからやり直さなきやアいけねえ。気を悪くしねえで、しばらくつきあつて下さいよ。ヘエ、お待ち遠」
と一心不乱であつた。
失恋難
オコウちやんに逃げられた落合天童の飲み屋では、さすがに天童いさゝかも騒がず又ハキダメの要領でせつせと再興に乗りだす。オコウちやん狙ひの客は姿を消したけれども、お酒さへ安く飲めりやいゝんだといふ新客が次第にふへて今では昔日の隆盛をとりもどしたから、コックにバ
前へ
次へ
全163ページ中61ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング