の借金は瀬戸が払ふのは当りまへだ。そのほかにお客が来なくなつた埋合せはお前がつけなきやならないのだ。二号になりやいゝんだ。五六人ぐらゐの男にうまく取り入つて共同の二号になれ。待ち合の娘のくせに、それぐらゐの腕がなきや、出て行くか、死んぢまふか」
ひどいことを言ひすてたあとは、いつもプイと出て行つてしまふ。
着物がなければ客席へも出られず、専らお勝手でお料理作り専門で、くゞり戸から腕だけ差出す、マダムはどうしたといふお客にも顔がだされず、これでは二号になる術《すべ》もない。
けれども宿六は富子の顔を見るたびに、二号になつたか、まだならないのか、バカ、と言ふ。外のことは一切喋らない。美人女給もくることになつた。富子は衣裳もちで戦争中はそれだけ疎開させておいたから質に入れて宿六のふところにころがりこんだ金だけでも大きなもの、この金によつて女給を手なづけて口説かうといふ肚がきまつて、もう宿六の思想は微動もしない。これが分るから富子は口惜しい。彼女が出て行けば宿六の勝利は目に見えてゐるが、出て行かなくともオサンドンではもう我慢がならない。どうしても天下有数の二号になつて見下してやりたい。
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