ど又あつらへ向きに瀬戸と絹川が両端に、その中間に倉田がしたゝかきこし召してゐる。両端に色男が二人ゐるから、清人は富子に、おい、ドッチがドッチだ、あゝさうか、あつちが瀬戸さん、こつちが絹川さんか。彼は瀬戸のところへ歩いて行つた。
「君はもうこの店へ来ない方がよいよ。お金のある時だけ来たまへ。然し今までの借金は必ず払つて貰ふから。毎日誰かを取りにやります。お金のあるとき、ある分だけ必ず貰ふ。全部払ひ終るまで毎日誰か取りにやります。君はこの女から借りたんぢやなくて、僕が貰ふお金なんだ。その代りこの女を連れて行きたまへ。君のところへ行きたいさうだから」
「まアまア最上先生、お待ちなさい。色恋の話はもつと余韻を含めて言ふものだ。あなたみたいに、さう棒みたいに結論だけを言つたんぢや、話にならない」
倉田がかうとめ役にでたが
「いや、僕のは色恋の話ぢやないんだ。単純な金談だ。女のことは金談にからまる景品にすぎない」
「いや、金談でもよろしい。ともかく、談と称し話と称するものは、あなたも喋れば、こちらも喋る、両々相談ずるうちに序論より出発して結論に至るもので、いきなり棒をひつぱるみたいに話のシメクク
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