る。この方が利巧にきまつてるぢやないか。ありきたりの闇屋さんが、数等利巧なんだよ。君にはアリキタリがいけない仕組になつてるのさ。ひと理窟ひねつて、何かしらホンモノらしい言ひ方をみつける。それだけだ。然し、種がつきないね。尤もらしく、巧妙なものぢやないか。然し、君自身、一度だつてもうけた例がないやうに、君が退屈したためしがないのが、不思議だね。ナンセンスだよ。ハッタリのバカらしさ、無意味さ、君は古風そのもの、古色蒼然、まつたく退屈そのものだね。もう、よしてくれ。君の時代はすぎ去つたのだ。いつの時でもアリキタリなのがその時代の真理なんだよ。アリキタリにもうける奴が、ほんとにもうけてゐるんぢやないか。第一、物はあるけどお金がないなんて、どんなにチャチな闇屋にしても、この節それほど手管のない口説はやらないものだよ」
「これは驚いたな。物はあるけど、お金がない。紙はあるけど、お金がない。これを御存知ないのかね。インフレ時代といふものは川が洪水になるみたいに、同じ情勢が激化するだけのモンキリ型のものぢやアないです。昨日までは鐘や太鼓で探しても無かつたものが、今日は津々浦々に有り余るほど溢れでゝゐる
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