らアル・カポネになるなんて、日本歴史のカイビャク以来、人相手相星ウラナイ、物の本にこんな予言のあつたタメシはないだらうな。全く、あなた、われわれ、歴史を読み、哲理を究めたやうな顔付をして、わがニッポンのギャングの親分が国定忠次や次郎長の型から突然最上先生に移つてくるとは、こいつは気がつかなかつたな。政令の結果は驚くべきものぢやないか。然しこれは政治の力ぢやなくて、アルコール、禁酒令といふものゝ独特な性格なのかも知れねえな。最も孤独なる哲人といふものは、どつちみちフランソア・ビヨンか、そいつを裏がへした聖人君子なんだから、ギャングの性格が腕力主義から商業主義へ移る時にはビヨン先生が夜の王様になるだらう。最上先生は深遠偉大そのものなんだな。アルコールの取引はたゞ餓鬼道の折衝あるのみといふ、これが夜の王様の威厳にみちた大性格であることをたゞの今まで気付かなかつたとは赤面の至りです。こゝに至つて、私も新興ギャングの乾分になりてえな。最上先生の片腕とまでは行かねえけれど、小指ぐらゐの働きはあるだらう。新興マーケットの一つぐらゐは預る腕があるだらうと思ふんだがな」
 最上清人は時間を怖れてゐるので
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