にさうでは困る。本当にさうだといふことなんか、ちつとも偉くないぢやないか。
 富子は芸者の生態に反感をいだいたことが失敗のもとで、若い美男子の好きなのが自分の本音であり、実際は芸者と同じやうに自分も浮気性なので、だから飜然本然の自分に立ちかへつてやり直してやれ、と考へた。
 そんな考へになつたのは「タヌキ屋」をはじめてお客の接待にでるからで、料理は女中がやる、富子が接待に当る、開店の時は美人女給も一名おいてみたけれども、お客の評判は富子の方がむしろ甚だ好評だから、まんざらではない、結婚して大損した、さういふ気持が強くなつた。
 するとそこへ現れたのは絹川といふ絶世の美男子で二十七になる会社員だ。油壺から出てきたやうなとはこの男で、お酒は一本しか飲まない、お料理は殆どとらない、そして長く話しこんで行く。毎日いらつしやいな、と言ふと、でも貧乏でダメといふから、富子は外のお客から高く金をとつて、値段は書きだしてないから高くとつても分らないので、それで宿六の知らない利潤をあげて、今日は半分にまけてあげるわとか、今日はお金はいらないことよ、とか、だから毎日おいでなさいといふ意味をほのめかしても五
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