な町だ。織姫の町で、女の方が金銭的に主役であるというばかりでなく、織物業という浮草家業の性格が本質的に女性的なのである。景気不景気の変動が激しく、浮き沈みがはなはだしい。それを生きぬく力が女性的なのだ。男はヤケ酒をのんだり自殺したりするが、女は平然と生きぬく力がある。その女の力が男の力よりも勝っているのが桐生である。その女の力に反逆してメカケをかこったり女をひっぱたいたりして男らしくふるまうけれども、この一番という男の力、最後の筋金が足りない町という感が深い。

     ヘプバーンと自転車

 桐生市には自転車が多い。通りがせまいから、それが一そう目だつ。ある時間には歩行者よりも自転車の通行人が多いような感じである。この市における人口と自転車の比率なぞをふと考えてみる気持になるほど自転車が多いのである。
 パチンコ屋の前にズラリと並んだ自転車。東京では見ることのできない壮観だ。ハイカラなレストランができた。そのとき町の若者の一人が私にこうつぶやいた。
「自転車を横づけにしてはいるのにグアイがわるいから、はやらないだろうな」
 映画館には必ず自転車の駐車場がある。その自転車の数を見ると
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