人の手ほどきでゴルフをはじめた。私の相棒としてはまことに好適で、世にこれほど風変りで裕然たるゴルファーはめったにいないと思われる。
 この人はゴルフをはじめて二十数年、ああでもない、こうでもないと、フォームの研究だけに日夜心をこめている。したがって、ほぼ一週間ごとにフォームがガラリと一変する。いかほどプロについても独自の研究に怠ることがなさすぎるから、一週間ごとにガラリとフォームが一変することは変りがないのである。この人にとっては少ないスコアでコースをまわることは問題ではない。ただ最初の大振りでタマが遠くへとべばうれしいのである。
「ゴルフの快味はドライバーショットです」
 と確信をもって断言し、制規のコースへ行っても、キャデーにタマをひろわせてドライバーショットだけ半日でも一日でもあきずにやっているのである。私がさそえば一緒にコースをまわりもするが他の人の多くに対しては
「あの人のゴルフはスコア屋だから」
 ときらって一緒にまわりたがらない。つまり私のゴルフはスコア屋でないと彼が認めてくれたわけだ。したがって彼と私は力いっぱいクラブをふって、彼は左、私は右のヤブへ主としてタマをとばし
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