らずの罪人を製造するが、かたられた金は戻ってこないからである。S君は告訴されることを期待していた模様であった。そしてちょっと服役することによってまんまとデフレを活用しうる予算であったらしい。しかるにシシフンジンのつるし上げにかゝり七、八百万がとこ白状せざるを得なくなってしまった。もしも法律というものがS君の隠匿財産をあばいて被害者に返してやることができるなら人権侵害もあるだろうが、単に罪人をつくるだけで実利は罪人に属すというのでは、悪人栄え、正直者は泣き寝入りの一途ではないか。法律自身のぬけ道や不備や無力さをまず猛省すべきであろう。
私にこの事件の裏話をいろいろ語ってきかせた消息通は、突然言葉をかえて私にこんなことを言った。
「キミはこの町の人々がどんなことを望んでいるか知っているかね」
「知らないね」
「まず百人のうち九十人までは夕食後のひとときを自宅の茶の間でテレビをたのしむような生活がしたいと望んでいるのだよ。ところがテレビは二十万円もして手が出ないから、ビールかコーヒーをのんで喫茶店のテレビでまにあわせたいが、その金も不足がちだ。そこでテレビの時間になると子供遊園地が大人で押
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