のおびただしさ、目まぐるしいばかりである。同行の女房は仰天して、
「芸者総あげね。こんなすごいお花見はじめて見た。桐生のダンナ方のことだから、これで千円ぐらいの会費であげてるんでしょうね」
「そんな他国なみの入費をかけるものか。しかし、七百円以下には値切れそうもないが、案外五百円ぐらいかも知れないぜ」
「まさか」
あとでダンナの一人にきいてみると、
「ああ、あの会費、四百円」
★
アンマの家から電話がかかってきた。ウチのアンマはまだそちらですかときく。二時間も前に私の家をでたのだ。盲人のアンマだから私も心配になって、散歩がてら出てみると、パチンコ屋からツエをたよりに出てくるアンマにぶつかった。私もあきれて、
「お前さん、パチンコやるのかい」
「通りすがりにあの音をきくと、ついね」
全然人なみの涼しい返事である。
「今日は何列目の左側の何番がよくでるね」
と私に伝授よろしくゆうゆう御帰館だ。とかくアンマが目アキの口をききたがるのは承知の上だが、実際にパチンコをやるとは知らなかった。
私がこの話を人に物語ると、これがまた意外の衝動をまき起したのである。
「なるほどねえ。アンマは指さきの商売だし、むしろカンだけをたよりにはじくから、これは出るかも知れないね」
こう言って武芸者のように考えこんでしまう人物もいる。いかにも真剣そのものである。
「そうだ。こいつはいいことをきいたね。オレも目を閉じてやってみよう」
生き生きと目をかがやかせてヒザをうつ人物もいる。いずれも私の本意たる風流を解せざることはなはだしく、深刻きわまる反応であった。
しかし、アンマのパチンコが彼らをかくも感奮せしめるところを察するに、彼らはすべて敗軍の将なのだろう。私はパチンコをやらない。月に百円のゴルフをたのしむ私は、茶道をたのしむこじきのようなものであろう。
いつも大投手がいない町
桐生は四百年前に織物都市として計画的につくられた時から小大名の支配をうけない天国で、日本全土を相手に取引と金勘定で明け暮れしてきた都市である。町ができた時から東における最も大阪的なところで、今日に至っても全くの小商工業都市で各人腕にヨリをかけ隣人親友を裏切って取引と金勘定に明け暮れしているところだ。
物価は物すごく高い。それを知らないのは土地の人だけだ。私が伊東から
前へ
次へ
全17ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング