で偶然小林秀雄と一緒になつたが、彼は新潟高校へ講演に行くところで、二人は上越線の食堂車にのりこみ、私の下車する越後川口といふ小駅まで酒をのみつゞけた。私のやうに胃の弱い者には食堂車ぐらゐ快適な酒はないので、常に身体がゆれてゐるから消化して胃にもたれることがなく、気持よく酔ふことができる。私も酔つたが、小林も酔つた。小林は仏頂面に似合はず本心は心のやさしい親切な男だから、私が下車する駅へくると、あゝ俺が持つてやるよと云つて、私の荷物をぶらさげて先に立つて歩いた。そこで私は小林がドッコイショと踏段へおいた荷物を、ヤ、ありがたう、とぶらさげて下りて別れたのである。山間の小駅はさすがに人間の乗つたり降りたりしないところだと思つて私は感心したが、第一、駅員もゐやしない。人ッ子一人ゐない。これは又徹底的にカンサンな駅があるもので、人間が乗つたり降りたりしないものだから、ホームの幅が何尺もありやしない。背中にすぐ貨物列車がある。そのうちに小林の乗つた汽車が通りすぎてしまふと、汽車のなくなつた向ふ側に、私よりも一段高いホンモノのプラットホームが現はれた。人間だつてたくさんウロウロしてゐらあ。あのときは
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