居酒屋の聖人
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)我孫子《あびこ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)各々|宿酔《ふつかよい》の
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)つく/″\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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我孫子《あびこ》から利根川をひとつ越すと、こゝはもう茨城県で、上野から五十六分しかかゝらぬのだが、取手《とりで》といふ町がある。昔は利根川の渡しがあつて、水戸様の御本陣など残つてゐる宿場町だが、今は御大師の参詣人と鮒釣りの人以外には衆人の立寄らぬ所である。
この町では酒屋が居酒屋で、コップ酒を飲ませ、之れを『トンパチ』とよぶのである。酒屋の親爺の説によると『当八』の意で、一升の酒でコップに八杯しかとれぬ。つまり、一合以上並々とあつて盛りがいゝといふ意味ださうだ。コップ一杯十四銭位から十八九銭のところを上下してゐて、仕入れの値段で毎日のやうに変つてゐる。ひどく律儀な値段であるが、東京から出掛けてくる僕の友達は大概眼をつぶつたり息を殺したりして飲むやうな酒であつた。僕は愛用
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