ん。ただ、生きるだけで必死だろうと思います」
 長平は、もう分ったと手をふる代りに、鉛色の目玉をむいて、ソッポをむいた。

       二

 長平がせつ子の招待を承諾したので、二人は安心して辞去した。記代子はそこから出勤し、放二は報告のために、せつ子の社へ立ちよった。
 もしや青木が待ち伏せていてはと、放二はビルの裏口からはいった。そんな配慮を忘れなかったが、放二は裏をかかれたことを知らなかった。
 青木は戦後の出版景気に当てこんで、最近まで雑誌社もやってきたので、編集者の生態については知るところがあった。彼らは社へでる前に作家を廻って用をたし午すぎるころ顔をだす。一二時間ブラブラして、又、原稿の依頼や催促にでかけてしもう。それは朝寝と早びけの言訳にも便利である。
 放二は要心しているし、口が堅いから、彼をつかまえて、たのんでみても、長平の宿を教えてくれる見込みはない。
 そこで早朝から放二のアパートの陰に身を隠して待ちぶせた。出勤前に長平を訪ねて用をたす公算大なりと見たからである。
 果して放二は新宿で記代子と待ち合して、社へは行かずに、とある屋敷の門をくぐった。旅館ではない。ち
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