「ぼくの気持は、きいての通り、あれで全部だよ。君の一存で、自由に捌いてきてくれたまえ」
「お気持だけはお伝えしてきます。ですが、一存で捌きはつけかねますが」
「今夜一夜の間に合せの捌きだよ。あとは、どうなろうと、かまやしないさ。こんなバカバカしい話はもうタクサン」
 長平はふと梶せつ子に思いつき、放二をやるのは、いけないかな、と考えたが、放二の澄んだ落付きを思うと、自分以上の老成した大人が感じられ、すべての不安は無用に見えた。
「ギョですよ。先生。ギョギョッ」
 バーテンは腹をかかえて大笑い。
「ビール二本のみますよ。罰金。冗談じゃないよ。銀座の女給だって、あんなハデな口説かれ方はしないね。バカバカしい」


     金の泥沼


       一

 青木は放二の話をきき終り、長平が来ないことをたしかめると、うなだれて、蒼ざめた。ぶちのめされて、ゆがんだ顔からは、あえぐようにしか声がでないらしく、
「わがこと、終れり」
 よくききとれない声であった。しかし、努力して顔をやわらげ、
「ぼくの顔に書いてあるだろ。お金を借りたかったんだ。百万ほど」
 フッと溜息をもらして、
「ここの勘
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