ていたのよ。みると、お母さんが歩いて行くのよ。お母さん、助けてッて、叫んで追ッかけようとしても、足が砂にうずもれて進むことができないうちに、お母さんがズンズン歩いて行ってしまうの。とりつく島もないわね。でもね。ズンズン行ってしまうお母さんが悪者ッてことはないわ。誰も悪くはないのね。そんな夢を見ることが、悪いことなのよ」
「夢が悪者なのかい」
「私はね。大庭先生がね。人に夢を与えるようなところがあると思うのよ。だから、悪い人だと思うのよ」
 ルミ子は真顔でそう言ってしまうと、ふき出して、大そう、こまりながら、
「先生、ごめんね。私はね。人に夢を与えることが、悪いことだと思うんです。怖しいのです。私は人に夢を与えるような気持なんかなかったんですけど、何かしら夢をみて死んだ男の人があったんです。でも私は悪いことをしたとは思いませんでした。したツモリがないのですもの。先生も、そうかも知れません。でも、それは、きッと、悪い事かも知れません」
 ルミ子は睡たそうに、目をふせた。

       六

 せつ子のような多忙な女は、かえってヒマがあるのである。時間を巧みに利用するからであった。
 青木
前へ 次へ
全397ページ中328ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング