かった。名刺を渡して、
「大庭先生と社長の言いつけで、大庭記代子とおッしゃる方を探している者ですが、当家にかくまっていただいてるとききましたので、お目にかからせていただきに上りました。御主人にお目にかかって、くわしい事情を申上げたく存じますが、野中さんは御在宅でしょうか」
 アンチャンは黙ってスッとひッこんだ。

       十

 別のアンチャンがでてきたが、返事にきたのかと思うと、下駄を突っかけて、放二をすりぬけて、門に鍵をかけに行った。戻ってきて、凄い笑いをチラリと見せて、
「いつも、こうして鍵をかけておくんだけど、今日はどうしたことか、あんたが迷いこんできたから、泡をくったのさ」
 そう言いすてて姿を消した。それから、実に卅分間ぐらい、音沙汰がなかった。
 記代子が現にここに居たのを移動させているのだろうか、と放二は想像をめぐらした。あるいは放二を料理するための準備中かも知れない。そして、こんな場合に彼が蒙りそうないろんな料理のされ方を考えて、ジタバタしてもはじまらないから、とにかく身にふりかかる宿命をそっくりうけることにしようと心を決めた。身にふりかかる危険を払いおとす器用
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