ゃなかったんだがな。ま、いいや。何から喋らなきゃいけないという規則があるわけじゃアないんだからな。ねえ。キッピイさん。そうだろう。ぼくはあなたに会えて、うれしいのだ。ぼくは、あなたの頬ッペタを、ちょッと突ッついてみたいね。普通、そんな気持には、ならないもんだね。接吻したいとか、肩をだきよせたいとか、そういう気持になるもんですよ。一般に、女というものに対してはね。ところが、キッピイさんは、ちがうね。ぼくは頬ッペタを突ッつきたいんだ。チベットの女の子は、コンニチハの挨拶にベロをだすそうだね。べつに頬ッペタを突ッつかなくとも出すんだとさ。だけどさ。南洋の観音様は、こッちの方から頬ッペタを突ッついてあげて、コンニチハの挨拶がわりにしたいんだなア。ベロをだせというんじゃないんだぜ。最もインギン、又、愛情こまやかに焚きしめた礼節としてですよ」
青木はビールをのもうとした。頬杖をついてジロジロ目を光らしていたキッピイが、片手をのばして、青木が口に当てたコップを横に払った。コップは壁に当って、落ちて、割れた。キッピイは睨みつけて、
「じゃア、私の頬ッペタ、突ッついてごらんよ。タダは、帰さないよ」
前へ
次へ
全397ページ中208ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング