秘書をよんだ。
「アレ、とどいてますか。タキシードは?」
「きております」
「持ってきて下さい」
秘書はカサばった包みをぶらさげてきた。中から、タキシード、シルクハット、靴、その他付属品、ステッキに白い手袋まで一揃い現れた。
「あなた、きてごらんなさい」
せつ子は青木に命じた。
「なにごとですか。これは?」
「社員は連日宣伝に総動員ですよ。あなたのように、休んで遊んでいる人はおりません。あなたは、明日から三日間、この服装で、都内の盛り場の辻々でビラをくばるのです。ヒゲのある中年紳士は、あなただけですから。デコレーションを施したトラックに、蓄音機と拡声機をつみこんで、お供させます。あなたは、演説がお上手でしたね。立候補なさるのですものね」
青木は泣きそうな顔をしたが、
「ええ。演説はね。うまいもんですわ。なんなら、シャンソンぐらい、おまけに、唄ってあげまさアね。タキシードも似合うでしょうよ。着てみなくッても分りまさア。紳士はなんでも似合うにきまっているのだから」
サヨナラも言わないで、立ち去った。
五
青木は、たそがれの街を歩いていたが、ふと、キッピイを思いだ
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