います」
 こう答えると、穂積は苦笑して、
「なに、生きてるものなら、探すこたアないよ。君のからだが大事だぜ。死んでるものなら、警察の領分さ。とびまわるのは、青木さんだけで、タクサンだ」
 哲学科出身のこの男は、日本式のプラグマチズムを身につけて、煩瑣なことには一向に動じなかった。
 死んでるものなら、たしかに手の下しようがない。しかし、生きていると、いつ死ぬかわからない。又、どう転落するかわからない。放二はこの部屋の中から記代子の足跡をどうしても見つけだそうと思った。
 捜査の手がかりになりそうなものを一つ一つとりだした。
 友だちからの手紙。みんな親しい女友だちからである。男からの手紙はなかった。
 手紙を一つ一つ読んでみても、手がかりになりそうなものはない、暢気な手紙ばかりであった。放二は差出人の住所を書きとった。
「やっぱし、日記かな」
 最後の日付の日記だけカンベンして見せてもらおう、と放二は思った。最後だけじゃア、まにあわないかな。あるいは、最後の一週間分ぐらい。
 放二は押しこんだ日記帳をとりだした。そして、頁をパラパラめくって最後の日付をさがした。最後の日が、どこにもな
前へ 次へ
全397ページ中168ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング